腰部脊柱管狭窄症とは

 腰椎(腰部の背骨)は5つの骨でできており、頸椎と同様、腰椎と腰椎との間は椎間板という柔らかいクッションのような組織で連結されています。腰椎には後方に脊柱管といって神経の通る空洞があり、この脊柱管を上下方向に通る神経根を通して脳からの電気刺激が下肢の筋肉に伝わり、収縮させることにより我々は下肢を動かすことができます。また下肢や腰部の感覚も神経根を通り、電気信号が脳に伝わることにより感覚を感じることができるのです。腰椎は頸椎と同様、よく動かす部分であるため、長く使っていると腰椎が上下につぶれ気味になって後方に骨(骨棘)が突出してきたり、椎間板が膨隆してきたり、また、脊柱管の後方にある黄色靭帯が肥厚してきたりすることにより、神経の通り道である脊柱管の狭窄が生じてきます。腰部の脊柱管が狭窄し、中を通る神経根が周囲から締め上げられることにより起こるのが腰部脊柱管狭窄症です。

 

腰部脊柱管狭窄症の症状

 腰部の脊柱管が狭くなり、脊柱管を通る神経根が締め上げられ、神経の中の電気信号の伝達が悪くなるのですから、下肢の脱力や腰部から下肢の痛み、しびれが生じ、長く歩けなくなります。腰部脊柱管狭窄症による歩行障害は、下肢の痛み、しびれ、脱力のため歩けなくなっても、しばらく休むと歩ける(間欠性跛行といいます)のが特徴です。症状が進行するほど歩ける距離が短くなります。

 

腰部脊柱管狭窄症の治療

 症状が軽い場合は神経根周囲の血管を拡張させたり、血液をサラサラにして流れやすくする作用のある内服薬で治療します。内服薬が効かなかったり、症状が重い場合は狭窄の原因となっている部分を切除する手術を行います。多くの場合、肥厚した黄色靭帯が原因である場合が多く、その切除術を行います。

 

腰部脊柱管狭窄症の手術

 手術は以前は腰部背面正中を10cm以上切開する必要がありましたが、最近では腰椎の棘突起という後方に突出した骨を縦割し、腰椎周囲の筋肉をあまり骨から剥がさずに手術が行われるようになり、1椎間で痩せた人であれば3cm程度の切開で手術可能となっています。

 左は第4/5腰椎間の腰部脊柱管狭窄症例のMRI矢状断です。前方と後方から脊柱管が圧迫され、白い髄液のスペースが見えなくなり、神経根が圧迫されています。ここに狭窄があるために腰を曲げたりしたときに、神経根は上方には引っ張り上げられますが、下方には戻ることができないため、狭窄部の上方に神経根がとぐろを巻いたように余って見えています。

 左は上の症例のMRI水平断です。矢印で示した黒い部分が肥厚した黄色靭帯であり、これにより前方正中部の神経根の入った硬膜管は強く圧迫され、3角形に変形しているのがわかります。また、神経根周囲の本来白く見える髄液腔がはっきりしなくなっています。

 

 

 

 

 

 

 左上が手術後のMRI矢状断です。術前の狭窄部(黄色矢印部)が広くなり、神経根の圧迫が解除されたため上方でとぐろを巻いていた神経根が見えなくなり、正常の縦に走行する繊維として見えています。

 

 左上が手術後のMRI水平断です。術前に狭窄の原因となっていた肥厚した黄色靭帯(黄色矢印で示した黒い部分)が切除され、前方に圧排され3角形に変形していた硬膜管への圧迫が解除されています。点状に見える神経根とその周囲の白く見える髄液腔(神経根周囲のすき間)がよく見えるようになっています。

 

まとめ 

 以上のように、腰部脊柱管狭窄症は神経根の通り道である脊柱管が、加齢性の変化により狭窄し、神経根が物理的に圧迫されることにより起こります。軽症例では内服薬で治療しますが、症状が増悪した例では手術による物理的な圧迫の解除が必要です。術後より腰下肢痛、脱力が消失し、楽に歩行可能となる場合が多く、手術後の患者さんの満足度は非常に高いことが多いです。高齢化社会を迎え、手術を必要とする患者さんはますます増えてくることが予想されます。