後縦靱帯骨化症とは
後縦靱帯とは脊髄の通り道である脊柱管の前面にあり、脊椎椎体の後縁を上下に連結している靱帯で、椎体の後ろを縦方向に走っているため後縦靱帯という名前が付いています。この靱帯が骨化し、肥厚して後方の脊髄や脊髄から分枝した脊髄神経を圧迫すると後縦靱帯骨化症を発症します。40歳以降に好発し、男女比は2:1で男性に多く、頸椎疾患で外来を受診する患者さんの頸椎単純写真を撮ると、約3%の患者さんに後縦靱帯骨化がみつかるとされています。
上は頸椎CTの水平断です。右側が正常例であり、左が後縦靱帯骨化症例です。黄色矢印の部分が骨化した後縦靱帯であり、脊柱管(脊髄の通る空洞)にむけて突出しています。
上は頸椎MRIの水平断です。右が正常例であり、左が後縦靱帯骨化症例です。黄色矢印の部分が骨化した後縦靱帯であり、後方の脊髄が圧迫され、右の正常例ではソラマメ状に見える脊髄が圧迫され変形しているのがよくわかります。
後縦靱帯骨化症の症状
頚部痛、上肢の痛みやしびれ、手指巧緻運動障害で始まることが多いようですが、進行すると下肢のしびれ、痛み、歩行障害が出現してきます。症状が出ていなくても脊柱管が狭い状態で、すきまがないため、転倒などの軽い外傷を契機に急に四肢麻痺が生じて運び込まれることもしばしばみられます。
後縦靱帯骨化症の治療
局所の安静保持をはかるために頸椎カラーによる外固定や薬物治療が行われますが、効かない場合は手術が必要になります。
前方除圧固定術
頸椎椎間板ヘルニアや頚椎症の場合は前方から突出しているのは椎間板の高さであるため、突出したヘルニアや骨棘を除去した後は椎間腔にチタン製のケージを入れて上下の椎体の固定を行います。後縦靱帯骨化症の場合も椎間板の高さに限局していればケージによる固定で済みますが、椎体後方の後縦靱帯が骨化していることも多く、その場合、椎体を削除し、その後方の骨化した後縦靱帯を切除する必要があります。椎体を削除したためにできた空洞は自家骨で補填する必要があります。自家骨による補填後、さらに椎体前面にチタン製のプレートを当て、スクリューで固定する必要があります。
上は左が術前、右が術後の頸椎CT水平断です。左の骨化した後縦靱帯は切除されています。椎体の中央部が削除されているため同部に骨盤から骨片が移植され、その前方はチタン製のプレートで固定されています。
上は左が術前、右が術後の頸椎CT矢状断です。黄色矢印の骨化した後縦靱帯は切除され、椎体に移植骨が入れられ、その前方はチタン製のプレートで覆われています。
上は左が術前、右が術後の頸椎MRI水平断です。黄色矢印の骨化した後縦靱帯は切除され、脊髄への圧迫が消失しています。
椎弓形成術
後縦靱帯骨化症の場合も脊髄への圧迫が多椎体レベルにおよぶ場合は前方の後縦靱帯骨化症病変はそのままにして後方から椎弓形成術を行い、脊髄を後方に逃がすことにより除圧をはかります。
上は左が術前、右が術後の頸椎MRI矢状断です。前方からの圧迫はそのままにして後方の椎弓形成術を頚椎症と同様に行ったところです。脊髄の圧迫が解除され、脊髄の前後に髄液のスペースができています。ただ脊髄内のキズは白く残っています。