正常圧水頭症とは

 脳の中には脳室と呼ばれる小部屋があり、その中は髄液と呼ばれる透明な液体で満たされています。髄液は脳室内の脈絡叢という組織で1日に約500ml産生され、脳表に出て多くはくも膜顆粒という組織で同量が吸収されることでバランスが取れています。髄液の吸収が障害されると脳室内に髄液が貯留し、脳室が拡大します。脳室の外側の脳が頭蓋骨との間に挟まれ、圧迫を受け、機能の低下が生じることにより症状が出ます。症状は歩行障害、認知症、尿失禁が3大症状です。正常圧水頭症の多くはくも膜下出血後に生じますが、そうでない例もみられます。正常圧水頭症は比較的簡単な手術で改善します。通常の認知症として治療を受けている例の中に正常圧水頭症例も含まれていることが最近指摘されるようになり、手術で治る認知症として注目を集めています。

 

正常圧水頭症の診断

 正常圧水頭症の診断は頭部CT、MRIで脳室が拡大していることで多くは診断されます。くも膜下出血の後であれば発症後2-3週間ほどで明らかに脳室が拡大し、認知機能低下が比較的急速に出現してくるため診断は容易です。ただ、そうではない場合が問題となります。高齢になると脳組織が萎縮してきますから、程度の差はあれ相対的に脳室が拡大しているように見えるのが普通です。脳室に本当に髄液がたまって脳室が拡大しているのか、脳が萎縮した結果として脳室が単に拡大して見えているだけなのかわからない場合も少なくありません。そうした場合に行われるのがタップテストです。腰から針を刺し、髄液を20-40mlほど排除してみて上記水頭症の症状が改善するかどうかをみます。症状が改善するようであれば手術が有効であると診断されます。これは入院の必要はなく外来で安全にできる検査です。

 

正常圧水頭症の治療

 正常圧水頭症の治療は頭で処理しきれずに余った髄液を体の他の部位に誘導し処理するシャント手術が行われます。上の3つの方法がありますが、脳室-腹腔シャント、腰椎-腹腔シャントが一般的です。両方とも頭で処理しきれなくなった髄液をおなかに誘導し、腸管のまわりの腹膜に吸収してもらうことにより余分な髄液を排除するものです。脳神経外科手術の中では比較的容易であり、脳神経外科になりたての先生が担当することが多い手術です。髄液が過剰に排除されると硬膜下血腫や水腫を生じることがあります。このような合併症を防ぐために最近では体外から磁石を用いて髄液の流れやすさを調節できる圧可変式のシャントシステムが用いられることがほとんどになっています。

左上段がシャント術前の頭部CTです。矢印のように脳室が拡大しているのがわかります。

 

 

 

 

 

 

 

 

左下段が腰椎-腹腔シャント術後の頭部CTです。拡大していた脳室が正常のサイズに戻っています。この症例では認知症、歩行障害、尿失禁が著明に改善しました。